「はぁ…はぁ…はぁ」
背中に大きめのリュックを背負い、獣道みたいな山道を歩く。
何百メートルかおきに紅い鳥居があるがとても古くいかにも「この先の神社はもうやってません」みたいな感じだ。
それでもその道を頑張って歩く。
ドサッと荷物を置き、一休みする。
「フー、…後どのくあいあるんだろ」
季節は夏で、温室の中に居るような蒸し暑さだ。
暇つぶしにおばあちゃんから聞いた事面白いところの話を頼りにここまできた。
初めに神社に着くらしい。
「ん〜。昼過ぎて行けなかったら帰るか。」
そう決めてリュックを背負いなおす。
それからしばらく歩くと石畳になって綺麗な鳥居がある道に出た。
そこを歩いていくと大きな広場みたいなところに出た。
ぐるっと見回すと神社があった。
「ばあちゃんの話は本当みたいだな…」
とりあえず神社に向かう。
チャリーン…ガランガランガラン、ぱんっぱんっ。
「えっと。(勉強が出来るようになりますように、彼女が出来ますように、足が速くなりますように、お金が儲かりますように、それから……)」
五百円を賽銭箱に入れて、考え付く願い事を言ってみる。
トントントン、と誰かが中から歩いてくる音が聞こえる。
「だれ?」
ひょいっと顔を出したのは俺と同じくらいに見える女の子。
巫女さんの格好で出てきた。
「……見慣れない格好ね。どこから来たの?」
「えっと、そこの道から…」
めんどくさそうな顔から少し驚いた顔になる。
「外から?」
「え、そ、外?」
たしかに俺が来たところとは違うところに登ってくる石段があったけど。
「まあ、上がんなさい」
疲れていたので言葉に甘えることにした。


「はい、お茶」
「どうも」
湯気の立ち上る湯飲みを受け取る。
……ず、ずず。
「あちあち」
「あら?熱かった?」
「いや、オレ猫舌だから気にしなくてもいいよ」
「ふぅん……そのリュック下ろせば?」
「おっと、そうだった」
ドサッとおろす。
「重そうなリュックね」
「いろいろ入ってるから」
チャックを空けて中身を取り出す。
お茶菓子、お酒、つまみ。
「……なんでこんなもの入ってるの?」
「ここには、ばあちゃんに聞いてきたんだけど行くならこれもってけって。おかげで大変だったよ」
「じゃあ、これお土産?」
「うん」
感心したような驚いたような顔になる。
「どこかの黒白とは大違いね」
がらがらがら。
『おーい、きたぞ〜』
「噂をすれば何とやら、ってね」
「?」
玄関に向かって歩いていく。
『今来客中よ』
『わたしも来客だぜ』
『あ、こら。勝手に上がんないの』
言い合いながら足音が戻ってくる。
「きっとまた暇なやつでも………お?」
「ほら、見てのとおりお客よ」
「ふ〜ん…」
じっ、とこちらを見るので俺もじっと見る。
なんと言うか、三角帽をかぶってエプロンドレスみたいなのを着ていて、黒くて白くて……。
「なあ、紹介してくれよ」
「いいけど、……えっと、名前は?」
「式辺」
「わたしは霊夢、ここで神主してるわ。こっちが魔理沙」
「よろしくな、式辺」
「よろしく」
挨拶もそこそこに適当に座る。
「さて今日ここに来ていい事がある」
「なに?」
「酒がある、茶菓子がある」
「これはわたしが貰ったのよ」
「硬いこと言うなよ」
言いながら茶菓子に手を伸ばす。
「ほら、この黄色いのおいしそうだぞ?」
カステラだ。
「なあなあ、ほらほら」
「…また今度持ってくるよ」
「しょうがないわね」
ふぅ、とため息をつく。
「今お茶入れてくるから待っててね」
「ああ、待ってるぜ」
霊夢が見えなくなるとこちらに向き直る。
「どっから来たんだ?」
「ふもとの町だけど?」
「ふ〜ん。外から来たのか…」
「…それより熱くないの?」
「そりゃ夏だもの暑いさ」
「いや、そうじゃなくて……」
「おまたせ」
そんな服着て熱くないの?と、聞こうとすると盆に急須と湯飲みを二つ乗せて霊夢が戻ってきた。
まあ、ずっと着ているから大丈夫なのだろうと思っておく。
「んん、うまいなこれ」
早くもぱくついてる。
「霊夢のお茶もうまいがこれもなかなか」
味わった後にお茶をすする。
「ふぅ、……なあ霊夢」
「んー?」
「こんな暑い日にこんな熱いお茶じゃなくて冷たいお茶ないのか?」
「わたしは熱いお茶が好きなのよ。文句があるんなら自分で持ってきなさい」
「ねえ」
「なに?」
「なんだ?」
「ここら辺案内してもらいたいんだけどいい?」
「ほら、御馳走になってばっかりなんだからあんた行きなさい」
「あー、まあいいか」
お茶を飲み干してから立ち上がる。
「ほら、行くぞ」
「あ、うん」
さっさと玄関に歩いていく。
魔理沙は玄関の脇に立てかけてあった箒に乗るとふわり、と浮かぶ。
「ほら、後ろに乗れよ」
目の前のそれはイメージしていた魔女そのもので
「……魔理沙って魔法使いなの!?」
「あれ?言わなかったっけ?」
「うん、聞いてない」
「まあ、気にすることじゃないだろ。ほら乗れよ」
かなり驚いたが、あまり気にしないで魔理沙の後ろに乗る。
「よし行くぞ!」
「おわ!?」
俺が乗ってるからとかまったく気にせずに発進する。
「いい眺めだろ」
風がすごくて周りなんて見てられない。
「……おぉー」
片目だけあけて見てみると確かにいい眺めだった。
「これから手早く案内するから行ってみたい所は覚えておけよ」
俺を振り落としたいのかと思うくらいのスピードで魔理沙たちの住んでるところを案内してもらった。
神社に戻ると霊夢は縁側でお茶を飲んでいた。
「お帰り。どうだった?」
「特急で見て回ってきたぜ」
「行ってみたいところとかあった?」
「でっかい館とその周りにある湖に行ってみたいな」
「よし。明日つれてってやるよ」
「明日?」
「そう。お前持ってきた酒で宴会やる」
「ちょっと、勝手に決めないでよ」
「宴会やった後、神社に泊まれば朝一でいけるだろ?」
「行けるけど」
「よし、準備だ!」
「まだ夕方だよ?」
「いろいろやってれば夜になるさ。そもそもなんで宴会は夜なんだ?昼間からでもいいんじゃないか?」
「昼間っから酔っ払ってたらのんだくれじゃない」
「むぅ……おい陽介」
「え?」
「お前は宴会はいいと思うか?」
「いいと思うよ?」
「ほら、やっぱりいいんだよ」
そこからの魔理沙の行動は速かった。


「お前も飲めよ〜」
「俺はいいよ」
「なんだよ〜、わたしのお酒が飲めないって言うのかよ〜」
「はいはい、からまないの」
「少しくらい飲んだっていいだろー」
「だって俺未成年だし」
「いいだろ少しくらい、飲んだってばれやしないよ」
コップになみなみ注がれた酒を差し出す。
「まぁ、少しくらいなら…」
差し出された一杯を飲み干して少しした後に意識が途切れる。


「うあぁ〜?」
まぶしい朝日で目を覚ました。
のっそりと起き上がり室内を見る。
転がっている空の酒瓶と霊夢と魔理沙。
あの後そのまま寝てしまったらしい。
「う゛〜〜」
胸焼けがして頭が痛い。
「………ふぅー」
ぱたり、と仰向けになりまた目をつぶる。